私がかけ出しのコンサルタントの頃、30数年前の話である。
第二次オイルショック後の不況に陥った時期(1980年の下半期)、東海地方のあるメーカーは家電大手メーカーからの受注が極端に落ち込み、売上高が激減していた。社員数はパート30名を含む80数名だった。
経営診断を行った結果「仕事量に比して、社員数が多い」と結論づけた。減量経営のはしりである。
しかしその時、創業者である社長は「先生は社員の事を分からないから、そんな事が言えるんだ。私は社員一人一人の顔が浮かぶし、その家族も知っている。誰々さんの子どもが一年生になった、誰々さんの娘が結婚式だ、誰々さんのお祖母さんが病気がちだ、ということが頭にある」と仰った。
こういう状態で社員の解雇はできない、との判断たった。
では、どうするのか?
社長の意思を確認しながら対策を練った。
1.これまでの内部留保を活かして社員教育(技術・知識・教養)を強化し、景気が良く
なった時に備える。
2.不景気が長引けば、社員を交代制で勤務させる。
3.上記のことを社長自ら全社員に説明し、社員の雇用を守るから協力してほしいと要請する。
その結果、全社員の結束力やモチベーションがさらに高まり、研修に取り組む姿勢も真剣そのもので、景気が向上したと同時に業績はV時回復へと向かった。
次は、米国9.11同時多発テロ(2001年)後の沖縄観光大打撃時の経営者(創業社長)の話だ。
県内の離島航路は事件前は大活況で毎日各便満席状態だったが、事件後は観光客が激減し、一転して開店休業状態となった。
その社長は、ある経営支援機関から「従業員を休ませて、固定費削減に努めた方が良い」とアドバイスを受けたそうだ。しかし社長の決断は別のものだった。次の手順を全社員に説明した。
1.無駄な経費の見直しを徹底する。
2.次に、回復するまで社長の月給を50%カットする。
3.おそらく、それでも足りないだろう。その時は管理職の管理手当をカットさせてほしい。
4.それでも足りなくなったら、全社員の月給を10~15%カットさせてほしい。
5.それでも足りなければ、パートさんの月給を50%カットさせてほしい。
6.パート・社員の解雇はその後に考える。
その説明後、社員の結束力は言うまでもなく高まったのであった。
この2つの話を聞いて「感動」するか、「甘い」と思いうかは人それぞれだが、私は問題は別のところにあると思っている。
万が一の事を想定して、会社の内部留保を蓄積しておくことによって、いざというときに社員を守ることができる。(そのためには、正しい決算処理が必要…キチンと納税しなければ利益余剰金は積立てできない)
社員を大事にするということは「いざという時に社員を守る」ことができる、ということではないだろうか。
株式会社CSDコンサルタンツ
代表取締役 西里 喜明
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